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こんな日々(日常風景)

・主な登場人物

 こまかい手続きは、面倒なものです。  寒い季節には、おでんが食べたいものです。  人の有利は、どうにか奪いたくなってしまうものです。  ところで。カレーライスの味はどうしてあんなにも人を引き付けるのでしょうか。。。? $四聖獣$ /SCENE :1  太陽の就労時間が短くなり、「夕方」が少ない季節。  午後6時にもなれば道端は暗い。 「手数料がかかりますが、よろしいでしょうか?」  ポニーテールの女性は少し不安そうに伝えた。 「はい……大丈夫です」 「それでは――手数料の方、534円となります」  青色の銭受け皿を前に押す優しい笑顔の女性。 「……これを」  男は財布のボタンを外して、2枚の硬貨を渡す。 「はい、お受け取りいたします。―――お返し、16円です。お確かめください」  癒される声の女性はレシートと共に3枚の硬貨を渡した。  立ち上がって礼をする男が小さく「どうも」と答える。 「お時間がかかって申し訳ございませんでした。お疲れ様です」  応じるように立ち上がって可愛らしく頭を下げる女性。  男は「いえ、ありがとうございます……」と呟いてから自動ドアをくぐった。 /SCENE :2  銀行の自動ドアが開く。  中から出てきた目つきの悪い男性。出来上がったばかりの通帳を上着のポケットに仕舞いこんだ。 「もう、遅いじゃんか~」  金色の長い髪。幼い表情の人が頬をふくらませて出迎える。 「ごめん……」 「すごい暇だったよ! でも、これあげる!」  長い髪の人は綺麗な顔を緩めながら、赤色の缶を差し出した。  「ありがとう」と呟いて受け取る目つきの悪い男。  赤い缶は「コーラ」であり、これは炭酸飲料である。  炭酸飲料というものは乱暴に扱うと危険物と化す。具体的には、激しく振ると開けた時に「噴水」のように噴き出してしまう。  誰でも知っている現象だが。いい年した人間がこれを利用するなど、普通は思わない。  目つきの悪い男がタブを起こす。  “パシッ!”という小さな破裂音が響くと、黒ずんだ液体が勢い良く噴き上がった。 「あ、あわわわ……!」  目つきの悪い男が慌てて押さえるが、押さえらえた甘味飲料は手のひらで弾かれ、四方へと飛び散る。彼の衣類は黒ずんだドリンクでびたびたになってしまった。 「うははっ、やった、凄いや!」  ガッツポーズをとって感激する金色の髪の人。  シワシワと泡を吹いている赤い缶。  飛沫(しぶき)が引っかかった目つきの悪い人は、呆然と立ち尽くしている……。 /SCENE :3 「怒ったの?」  金色の髪の人が申し訳なさそうにした。 「いや……だが、知らない人にはするなよ」  衣類が糖分たっぷりの飲料でべたついたが、あんまり目つきの悪い男は怒っていないらしい。 「うん、わかったぞ!」  金色の長い髪の人は素直にうなずいた。  金色の髪の人は背が高いらしく、中背の目つきの悪い男と並んでいると頭1つ半は高い。  180cmを越える大柄な女性に見えるその人を、振り返る人は多い。  顔つきも綺麗で明らかに「異国の人」という感じなので、さらに目立つ。  景観はすっかりと夜。星が夜空に輝いている。  コンビニの明かりに照らされる背の高い人を、男性たちは注目する。しかし、隣の極悪人顔を見つけると、決まってさっさと店内へと駆け込んでしまう。  駅の裏にあるシルバニアマート前。並ぶ2人の口元から微かな湯気が上がっている。  買ったばかりのおでんは熱く、大根を口に運んで「熱いな、もぅ!」と文句を言う背の高い人。辛口のチキンを食べる目つきの悪い男は「落ち着け、落とすなよ」と口を尖らせた。  道行く人々は一日の忙しい事を終えた後で、それぞれが自分の家へと向かうのであろう。  中には、これから隣の歓楽街へと繰り出そうとしている若者の姿もある。大学が近いので、この辺りには日中や夜間にうろうろしている若者が結構いるのだ。 「冷えるなぁ……夜は」  目つきの悪い男が食べ終わったチキンの紙袋をクシャっとする。 「はわふひゅわわいはは~♪」  口から白い息を吐いて背の高い人は答えた。 「今年は関東でも降るかもな」 「はまふはふふほうっ!!」  話しながら、卵の白身の欠片を飛ばす背の高い人。 「人が入れる大きさは無理だろう。作りたければ雪の多い地方に行かないとな」 「ひゃ、ひほう!」  カラの使い捨て容器を突き出す。 「たまにはスーパー銭湯じゃない……観光地の温泉にでも行きたいな」  目つきの悪い男はそれを受け取って、手元の紙屑(かみくず)とともに備え付けのゴミ箱へと入れた。  「寒いっ、帰ろう!」と、いきなり声を張り上げた背の高い人。  駆けだすその人が振り返って急かすが、目つきの悪い男は「食べたばかりに走るのは良くない」と呟きながらトロトロと歩き始めた。 /SCENE :4  駅から西の方角は、高いビルが目立つ区域が広がる。  ビジネス街なので、この時刻は帰路のスーツ姿と無数にすれ違うことになる。  まだ街灯や店舗の明かりでにぎやかだが、午後10時を越えるとほとんど明かりが無くなってしまう。何せ、住宅が少なく、大半は家族の待つホームタウンへと戻ってしまうのだから。  人はそれなりにいるが、目つきの悪い男は道を歩きやすい。なぜなら、道行く人は彼の人相を見ると「うわ・・・」という表情を浮かべて、強い警戒と共に逸れていくからだ。 「すみません、ちょっとお話いいでしょうか?」  不意に声をかけてきたセールスマン(?)。背の高い人が「オウ、なんだい?」と答える。 「お姉さん、いいですよ。とても光ってますね~。私、こういった者なんですが―――」  そう言って名刺を取り出したセールスマン(?)は動きを止めた。  声をかけた背の高い人の影から、ひょいと顔を出した男。そのあんまりな人相にビビッてしまったのだ。 「あ――お連れさんがいましたか……これはどうも、いや~、これはこれは……」  などと強張った笑いを見せて、少しずつ距離を空けるセールスマン(?)。 「ん?」  首をかしげる背の高い人に「また、機会があったら」などと言いつつ離れていく。  人波に紛れていく姿を見送る2人。 「いなくなった!」 「……ま、しかたなし」  目つきの悪い男は寂しそうに呟く。  背の高い人は笑顔を浮かべて「意味が解らないな!」と隣の男に言い放った。 /SCENE :5 「今日は夜ごはん何?」 「……カレーかな」 「ワォ!」  夕食の予定を聞いて瞳を輝かせる背の高い人。目つきの悪い男は「気が乗らんな~」という日に、手軽な上に評判の良いこのメニューを採用する。1名以外はあまり文句を言わないので、とても便利だ。  2人はビジネス街を進んで行き、やがてゲームショップの前にさしかかった。 「あ~! ……う~ん」  言おうとした言葉を飲み込みながらも、店の前で立ち止まる背の高い人。 「……ダメだ」  目つきの悪い男は一言だけ呟いたが、すでに背の高い人は店内に入ってしまった。  店の中には3人の少年がいて、ビニールのパックからカードを取り出している。  小柄な少年と、太った少年に、眼鏡の少年。彼らはトレーディングカードのパックを購入して、さっそく開封しているらしい。  その光景を見た背の高い人が「1個買って」と訴えたが、目つきの悪い男は「ダメです」とだけ答えて顔を背けた。  断られても諦められず、たくさんぶら下がっているビニールパックの群れを凝視する背の高い人。  目つきの悪い男はそんなのは無視して、携帯ゲーム機用のソフトを眺めた。  無視された背の高い人の後ろで楽しげな少年たち。「う~ん」と、悔しそうにその姿を眺める。  すると、少年の内の1人が騒ぎ始めた。 「あっ、またレアじゃん! 2枚も当たったんか」  小柄だが、声の大きい少年が目を見開く。 「うん、やったよ! これで3枚使える」  眼鏡を掛けている少年が嬉しそうにカードを眺めた。 「あのさ。俺、それ持ってないんだ。1枚くれよな」  小柄な少年が眼鏡の少年の手元に図々しく手を伸ばす。 「え、嫌だよ! 3枚無いとデッキが安定しないんだから」 「あっ、ズルい。オレ(お↓れ↑)も持ってないから1枚くれよ~」  拒否する眼鏡の少年に、今度は太っている少年が言い寄った。 「だめだって。1枚刺しだと確率が酷くなるんだよ」 「同じの3枚持ってるんなら俺らに1枚ずつ渡してもいいじゃん。1枚でいいじゃん」 「だ、だから3枚無いと……」 「他のカード使えよぉ。そんな強いの3枚はズルい!」 「あっ!」  腕を引っ張って強引にカードを奪う小柄な少年。眼鏡の少年は呆気なくカードを奪われてしまった。 「返してよ、返して!」  体格は眼鏡の少年の方がいいのだが。気性の違いか、片手ではねのけられてしまう。 「なんだよ、みんしゅしゅぎなんだぞ! ズルいお前は犯罪者になっちゃうぞ!」  小柄な少年が大きな声を更に大きくする。 「平等って先生も言ってた。平等って、同じにすることだもん。だからオレにもちょうだいよ!」  太った少年が焦りながら眼鏡の少年に顔を近づける。  眼鏡の少年はレンズの奥に涙を溜めて、「返してよ!」と声を出すが、小柄な少年はすでにカードをポケットに仕舞いこんで聞く耳を持とうとしない。  更に太った少年に言い寄られて、いよいよ溢れる涙を堪えられず、悔しさで泣き始める眼鏡の少年。  涙目の少年を尻目に、小柄な少年が「俺は悪くないからな」と言って店を出ようと駆けだした――――その時。  『 待ちたまえ!!! 』  店内に鋭く、自信に満ちた声が響き渡る。  声と共に放たれた強烈な光に驚いて、振り返る小柄な少年。  少年が振り向いた先には、緑色のピッチリとしたコスチュームに身を包んだ謎の人物が威風堂々と立っていた。かぶっているヘルメットからは、長くて美しい金色の髪が確認できる。 「そこの小さな少年! レアカードを彼に返したまえ!」  突然現れたので小柄な少年は驚いていたが、すぐにそいつを睨み付けて言い返した。 「なんだよ、おまえ。そんな恰好で恥ずかしくないの?」  見下した目つきで変質者を馬鹿にする小柄な少年。彼から見た緑の不審者への感想は「変な恰好をした背の高いお兄さん(?)」でしかない。恐怖はなく、笑いがこみ上げている。 「恥ずかしいのは君だ! 強盗は犯罪だから、やってはイケナイぞ!」  突き出した手を広げて首を強く振る。キビキビとした立ち振る舞いを見ると、TVの中のヒーローが現実に出てきた気分になる。  ・・・しかし、所詮は紛い物。いまいち威圧感が足りない。 「うるさいな。おまえには関係ないだろ」  面倒くさそうに手を払う小柄な少年は、緑のピッチリスーツを無視して店を出ようとした。 「止まれ! 止まらないと攻撃する!」  ピッチリスーツが声を張り上げて威嚇する。「攻撃する」と言ったので、きっと少年は驚いてカードを返すだろうと思ったピッチリだったが……。 「―――殴るの?」  小柄な少年はひるむどころか、呆れた表情で振り返った。 「うん。攻撃だからな! ぶたれたくなかったら―――」 「殴ったら大人に言うよ」 「・・・・・大人は関係ないし」 「おまえも大人じゃんか」 「………違うもの」 「じゃ、子供か。でかい子供」 「違うよ、僕は子供じゃないもの!」 「なんだ、やっぱり大人か。関係ないんでしょ? だったらほっといてよ」 「………」  完全に封じられて言葉を失うピッチリスーツ。自分は確かに大人だ。しかし、「大人も関わって良し」とすると親とか先生がやってくる。それは怖い。 「でも、でも、カード泥棒はだめなんだよ」 「泥棒じゃないや。平等にしただけだもん。同じの3枚はズルだもん」  小柄な少年の態度に何か言いたそうにした眼鏡の少年だが、睨まれたので黙ってしまった。 「もう、夜だから帰らないと。怒られるからね」  そう言って、平然と店を出ようとする小柄な少年。  眼鏡の少年はうつむいて涙を堪え、ピッチリスーツは「えと、えと」と呟いて困り果てるばかり。  太った少年が「お、オレのも」としつこく言い寄る。 「―――君の行動には、“正義”が伴っていないな……」  静かに、ザラついた声。  小柄な少年は立ち止まった。  彼の前には、異様に目つきの悪い大人が立ちはだかっている。 「……ぅ」  先ほどまでの威勢が無い。自分を見下ろす視線があまりにも鋭すぎて、喉が締め付けられるような圧迫感で声が出せないのだ。 「返してやれ……カードを」  ゆっくりと、手を差し出してきた目つきの悪い大人。  恐怖が襲ってきたが、それでも小柄な少年はカードをポケットから出さない。 「―――人の物を奪うことは罪だ。それを目の当たりにしたら、関係の有無など“関係ない”。悪い事は正す。それが大人の役目であり、使命だからだ」  厳しくも、信念に満ちた視線と言葉。  小柄な少年はしばらく黙って睨み返していたが、「わかった……」と零して、ポケットに入れたカードを目つきの悪い大人に渡した。  目つきの悪い男は「もうするなよ」と、小柄な少年の頭をなでてから眼鏡の少年にカードを返す。  眼鏡の少年はポカンと呆けたまま、 「ありがとう」  と小さくお礼を言った。  ふと、気が付けば。小柄な少年が店内からいなくなっている。  店のドアは今、まさに閉まったところ。  これで少しでも彼の心が正せれば――心で願いつつ、目つきの悪い男は店の出口を眺めた。  その後ろでピッチリスーツの人が「一件落着だね!」と、偉そうにポージングを決めている・・・・・・。 /SCENE :F  ゲームショップを後にして。帰路を歩く背の高い綺麗な人と、目つきの悪い青い髪の男。  「ちゃんとカードを返してもらえて、よかった」と満足気にうなずく背の高い人。  横にいる目つきの悪い男は「カードを返した後に、もっと和やかな言葉を伝えるべきだったな……」と、自分の行動に不備があった事を嘆いている。  すっかりと暗くなったPM7時半のビジネス街。  まだまだ行き交うスーツ姿の男女が視界に溢れている。  ペットショップの看板が見えると、道路の対岸に姿を現す古い家屋。  高いビルに囲まれて、尚もやや奥まったその姿はみすぼらしいことこの上ないが。どんなに情けない見た目でも自分達の居場所である。  家屋から響いてきた「腹が減った! 腹が減った!」の雄叫びに、背の高い人が「僕も!」と答える。  駆けだす背の高い人。  目つきの悪い男は頬を緩ませてから、少し早足で彼の後を追った。   この季節。東京の夜は冷えている。   温かいカレーライスの味は、帰路で冷えた体に、芯から染み渡って心地よい―――――。        /「こんな日々」                   おわり