こんなヒビ(買い物風景)
・主な登場人物




ACT-1 /Scene1
東京都某所。 高層ビルに挟まれた日陰の古びた一軒家。
一軒家の裏手には広い庭がある。もちろん日光が少なく、苔が繁殖する岩が端っこに転がっていたりするが、一日の内一定の時間だけはそこそこ明るい。
ビルとビルの隙間から。アスファルトの反射を繰り返して到達した“間接照明と言うには間接すぎる”日差しは驚くほど柔らかい。
斑な雑草が蔓延る庭には、セミの鳴く声が残っている。夏も終わりが近づき、たまに大きな木の幹からポツポツと彼らが落下する。
「また死んだ!」
無暗に大きな声が広い庭に響いた。
声を発したのは短い髪の小柄な青年。
小柄な彼は落ちて引っくり返ったセミを指差して、「なんでそうなる?」と言いたげに首を傾げた。
「命が尽きる時は、いつだって悲しいものですね……」
白いワンピースを着た清楚な少女は儚さを感じつつも。同情を見せて尊大に彼らの死を眺めているわけではない。彼らに比べれば長く生きる自分たちが、だからと言って「短い命ね」と憐れむことはあまりに自尊が過ぎる。
穏やかに、無理に他の命に歩み込まず。清楚な少女は大きな木を見上げてみた。
広い庭には2人の姿。
刺々しい頭で背の低い、野性が具現化したような青年。
清楚に可憐で、気品に満ちた大人しい少女。
木陰を揺らす都会の風が、広い庭を優しく過ぎてゆく ―――――
$ 四聖獣 $
ACT-1 /Scene2
<< ア゛ア゛ーッシャイぃ!! >>
けたたましいクシャミが木造二階建ての壁を突き抜けた。
「あ゛~、鼻水ぁ゛~~」
古びた一軒家の中。台所を彷徨う金髪美人。
【玄武】は狼狽していた。垂れ下っている鼻水を拭き取るティッシュが無いからである。ゾンビの様で徘徊する残念な青年に2枚重ねのティッシュが授けられる。
「あ゛りがどう゛」
「どういたしまして」
感謝に答えながら、【奈由美】はいくらか入っている財布を清楚な人に手渡した。
「えっ……あの、そんなお気遣いなく、私は大丈夫ですから」
【輝歌】は渡された財布を返そうとする。きっと、気を使うだろうと解っていたので。「奈由美」はいつものように「遠慮しないで」と言った―――。
・・・・・清楚な「彼女」がこの家にいることはもう、当たり前であり、それは好ましいことだ。だけど、輝歌は今でも“遠慮”をしている。それは仲間に気を使っているのではなく、生まれついての謙虚な優しい性格だから。それは解っているのだけれど……。
「輝歌」は高貴な生まれで、お金には不自由無く――というより「お金」という存在をほとんど目撃せずに生きてきたらしい。
ところがどっこい、現在彼女は『家出少女』。ここにたどり着いた経緯は「爺やが……」としか解らない。食費その他はいいとして、私物をまともに買っていない輝歌。彼女が来てから1月は立つのに、このまま奈由美と共有の服というのも……胸囲はまぁ、良くても。丈の問題はある。
それに、こそこそとプレゼントしている不届き者がいるようで……奴を野放しにするわけにもいかない――いや、断じて許さん。もう許さん。
・・・・・奈由美は考えていた。自分は甘かった、もっと輝歌のことを思って、サポートするべきだったのだ―――と。
なぁなぁと、輝歌の優しさ(謙虚さ)に甘ったれていた。だからこそ、悪い虫に清楚な彼女を汚す隙を与えてしまったのだ。ごちゃごちゃと“屁理屈”をこねる余地も残さぬ……奈由美は鬼武者の如く怒髪、天を衝いている。
何をそんなに怒っているのか? それは、同居している不埒な茶髪の輩に対してである。油断も隙も無い。まさかこそこそとプレゼント攻勢をかけているとは………。
まぁ、実際、金銭関係の甘えは危険である。仲が良くとも、同居するならきちんと生活の費用を割り振るべきだろう。原始時代でも貝殻でそのくらい計算していたさ。
とかく、財布をしっかりと輝歌の手に握らせつつも、奈由美は鋭いプレッシャーを横目に発している。視線の圧力を知っていながらも平然としている茶髪の男――【朱雀】に数多の言葉を込めて………。
――― 事の背景は昨晩にある ―――
「朱雀」と「奈由美」は同居している「清楚な女性」への態度について、激しい論戦を繰り広げた。
それは1000年の争いを彷彿とするほど不毛で、しかも実りが無い争い。
まとめれば『居候である「輝歌」の衣類をどうするのか?』ということであり、紆余曲折を経て「ならば翌日に買いにいこう」という結論に至った(さすがに下着は購入済み)。
どうせ衣替えも迫っているので建設的な案ではあるが、8時間も言い争うほどのことであろうか?
あまりに長く、高まっていたので……。
気が付くと仲間の侍が手紙を残し、「いってきます」も言えずに旅立ってしまっていた。地下で寝ていたにもかかわらず、騒音で起こされた哀れな青年もいたと言う――――。
―――夜間を通して戦っていたせいか、2人の男女は寝不足である。しかし、ここで眠るとチャンスを得るか、チャンスを潰せるかという天と地の差が生じてしまう。
「それじゃぁ、さっそく買い物に行きましょう! うふふ♪」
睡眠不足の脳が余計な事を考えさせないためなのか。奈由美は変に気分が上向いている。
「えと――はい。その、どうもありがとう御座います」
輝歌は奈由美達の親切に感謝して、深く頭を下げた。
「こら! 気にしちゃだ~め。私達は家族も同然なんだから」
ハイな気分ってやつの奈由美は、輝歌の頬に指を当ててたしなめた。これには輝歌も目を点にせざるを得ない……。
そんな奈由美の服が引っ張られる。
「どこ行くん、キミたち?」
「玄武」が口を尖らせて興味津々に聞いてきた。
「お洋服を買いに行くのよ。玄ちゃんも・・・行くかね??」
爪先を軸に一回転! 圧倒的美少女のモデル立ちで答える。これには目を点にしていた輝歌も思わず仰け反った。
対して、玄武の反応は負に満ちている。苦虫を噛んでいる最中のようにガッカリとした、とても残念な面がそこにあった。
「服ぅ~?↑ ええぇ~…↓↓↓」
彼の望む物は奈由美の回答から得られなかったらしい。何を期待していたのかと言えば、もっと解りやすく楽しい施設へのお出かけであろう。
玄武は「いいや、行かない」と言い残して地下室への階段を下って行った。
……奈由美は解っていた。玄武はファッションに興味が無い事も、きっと冷めた反応が返ってくるであろうことも……。
だから、残ったのは「なぜ回ったんだ、私……」という後悔に次ぐ悔恨である。
< プァンッ! >
と、不機嫌に短いクラクションが鳴った。
「あ――じゃ、行こうか」
奈由美は冷静さを取り戻したのか。自然な態度で輝歌の手を引く。
「ええ……」
輝歌はそのまま通りへと導かれるつもりであったが――彼女には気になっていることがある。ちらりと振り返り、居間のソファを確認する輝歌。
「あ―――あの、ナユさん!」
「ふぇ?」
ぎゅっと足を止めた輝歌に間抜けた声で応じる奈由美。
「その――“トラさん”は行かないのでしょうか?」
「と、トラちゃん??」
輝歌が気になっていたこと―――それは、昨晩の騒ぎにも動じず、健やかに眠り続けている小柄な青年のことだった。
同居人の中で今現在一緒に買い物に行けて、まだ意思を確認していないのは彼だけである。
いつも同じような短パンにTシャツ姿。それこそ新しいGパンの一丁でも欲しいのでは……? と、輝歌はまた振り返る。
「ああ、トラちゃんはファッションとか気にしないから」
奈由美は決まり事のようにあっさりと答えた。
―――事実、その【白虎】という青年は衣類に気を使う性質ではない。輝歌は何度か、彼が履かせられたズボンを脱いだり破いたりする様を目撃している。
「昔はオシャレさんだったんだけどねぇ……」
憐れんでいるのか呆れているのか。奈由美は溜息を吐いた。
「それに、聞いてもどうせ五月蠅がるだけよ?」
あはは、と軽く笑い飛ばす奈由美。
しかし、気が付くとその手から輝歌は離れ、白虎の元へと駆けている。
「あっ! 危ないわよ、無理に起こすと暴れる―――!」
警告が遅れた。 奈由美は「しまった!」と青ざめた。
あんな野生児に暴れられたら、清楚な輝歌はひとたまりもない。……この時、奈由美は時間の経過が遅く感じられたらしい。
「トラさん、一緒に行ってくれるそうです!」
「だから無理って・・・・・むん??」
口を開いてだらしない姿勢で硬直する奈由美。
しばらく何も信じられない心境のままだったが、むくりと起き上がって輝歌の後ろを付いてくる小柄な青年の姿を見て現実を受け入れた。
「 なん~~~~~でだっ!!? 」
人知外の何かに啓示を求めるシャーマンのように。
奈由美は大きなモーションで天井を見上げた―――――。
ACT-2 /Scene1
『ご来店のお客様方に申し上げます。本日、20日の火曜日は―――』
3階建てコンクリートの巨大建造物。大型百貨店に特売日を報せるアナウンスが響いている。
平日だが、毎月決まっているこの日は曜日毎の特売と合わさり、大量ポイントゲットのチャンス! 世の奥様衆・単身貴族・ご隠居様方がこぞって集い、どこの駐車場もパンパンの有様。
盛況な百貨店の中を流れるエスカレーター。
人間の足腰を退化させることに定評があるこの黒い川には、常に誰かしらが身を任せて上下に流されている。
各フロア(階層)の天井が高いので、それらを繋ぐ昇降設備も当然長い。
そんなエスカレーターの一基。昇りの移動階段に、男女4人の姿が確認できた。
「――そしてデパートですか」
「朱雀」は手すりに肘をかけて小馬鹿にした笑みを見せている。
「なによ。文句があるならお勧めの店にでも連れて行ったらよかったでしょ? 運転はあなたなんだし」
先頭に立つ「奈由美」が背中で冷たく答える。
「ヤ~、そうしたい所だが……正直思い当たる店は“小遣い”なんてキャパじゃ到底収まらないのよね~。小遣いで足りないと、俺が出さざるを得ないっしょぉ?」
「・・・ああ、そうかい」
ヘラヘラと肩を揺らす茶髪の男に、先陣を切る少女は低い声域で答えた。
「――そうなると、輝歌にだけってわけにもいかないし……」
口をすぼめて発音し、唇を噛んで横目に流し見てみる。男の呟きに、奈由美は気が付かないようだ。
朱雀は小さく舌を打った。
(―――どうしてこうも節操が無いのかな)
人間なんだから、人類なんだから。ちょっとは理性を持って欲求を抑えることができないものであろうか。
奈由美は振り返ることもなく、背後で変わらずヘラヘラしているであろう男に憤慨している。
列になっている4人の最後尾。小柄でツンツン頭の「白虎」はしきりに周囲の匂いを嗅いでいる。
「フンフン―――ぬん!?」
白虎は突然に手すりから身を乗り出し、ひょい、と手すりに飛び乗った。
エスカレーターの手すりは子供でもかっちり掴める程度の幅しかなく、しかも階段部分とずれてやや早く動いている。
そんな不安定な足場に乗ったまま、白虎は匂いの元を探って上体を機敏に動かす。
「あ、あらあら……トラさん、危ないですよ」
口調から判断できないが。輝歌はとても焦りながら、野人のような青年を階段部分に戻そうと手を伸ばした―――。
そして、彼女は野人とは異なり、平衡感覚は常人以下である。
「あっ、あらら―――」
ぐらり、と階段の下向きへと姿勢を崩す。
エスカレーターは間もなく到着する。この高さから転げて落ちたら……。
「!」
野人が背後の空気の流れを機敏に感じ取り、手すりの上で急転身をかます。
「おっと―――危ないよ、気を付けて」
野人より早かった。奈由美と牽制合戦を続けながらも、朱雀は常にその広い視界に、上手いこと輝歌の姿を収めていたからだ。彼女が傾くより早く数段駆け下りて下から胸で受け止めるこの速度。 抜け目無い。
輝歌は現状の把握に遅れていたが、3秒くらい遅れて「ありがとうございます」となに変わらぬ平穏な表情で朗らかに感謝した。
朱雀としては思っていた反応ではなかったが、まぁ、上々の結果だろう。
……実は白虎も輝歌の肩を掴んでいた。一手遅れていれば手柄は白虎のものだったか――と、打算バリバリに朱雀は安堵の息を吐く。
<< あぎゃっ!!? >>
朱雀が安堵したと丁度同時。先頭にいたはずの少女の姿が視界から消えた。
「あれ?」
と、3人が首を傾げる。
エスカレーターはゆっくりと彼らを運び、おそらくけっ躓(ツマヅ)いたのであろう―――前のめりに転倒している乙女の姿を、水平線から出でる日の出の如く徐々に出現させた・・・・・・・。
ACT-2 /Scene2
この大型百貨店には、1・2階どちらも衣類販売の店舗が入っている。
だが、1階部分のそれは子供服と紳士服であり、今日の目的とは外れている。とりあえず付いてきた白虎だって、スーツなどを着せれば破くのがオチである。
まずはNUNIQLOでも覗こうかと「庶民思想、全速全開!」――な様子で奈由美が一団を先導している。
奴がまた何か言ってくるな――と奈由美は身構えていたが。案外と朱雀はNUNIQLOに対して文句を言わない。
「いいと思うよ。使い捨てとして考えれば」
……まぁ、かなり引っかかる言い方はされたが。
ともかく、アレよコレよと輝歌をコーディネイトする男女2人。
「ナユちゃんさ、自分のも買いにきたんでしょ? あっちのとかいいんじゃないかな~?」
「いやいや、まぁまぁ。ここは女同士でファッションを楽しみたいな~、なんて♪ スザ君こそあっちの、対岸のお店なんかが―――」
「あー、似合う。やっぱ素材が良いと服も映える! んじゃ、これに合わせて………」
「無視すんなゴルァ!!」
何のために輝歌に財布を渡してあるのか……。「はぁ、はい」と受け答えだけをこなすモデル(輝歌)を2人のデザイナーが奪い合う泥沼の有様。
やがて「だから、どうして一々貧乏臭いんだお前!」の一言が乙女の火薬庫に着火。第一次対戦の始まりを連想させる銃撃のような一つの言葉が、男女の頭を戦火の渦へと引き込んだ……。
いつ張り手がかまされるか解らない危険な戦況を、輝歌は「あらら~」と自然体で眺めている。
すっかり蚊帳の外となって……もう一人蚊帳の外にいるはずの小柄な青年が気になった。
すると、どうだろう―――既に“いない”。
ついさっきまで大人しく輝歌の後ろで衣類の臭いを嗅いでいた白虎は、信じられないほど静寂にこの場を後にしていた。
「あ、トラさんが――」
異変に気が付いた輝歌は交戦する男女に伝えようと試みる。しかし、口撃の音がうるさすぎて、彼らの耳には届かない。
このままだと白虎が迷子になってしまう―――輝歌は自分が成すしかない、と心を決めてNUNIQLOから立ち去った。
彼女はこの時、不思議と「自分も迷子になる」ということを発想せず、尚且つ初めてのデパートに対する恐怖心もまったく持たなかったと言う。
―――5分が経過。
店員の視線に気が付いた朱雀が「うぁ、なんてくだらんことを……」と額を押さえて冷静さを取り戻した頃。
当たり前だが、彼らの近くには同伴していたはずである2人の姿はすでになかった。
$四聖獣$
ACT-3
百貨店のフロアを可憐な少女が急ぎ、行く。
挙動不審に周囲を見渡しながら、その娘は捜し歩いていた。
男に限らず、すれ違うご婦人も老人も。一様に彼女を目にすると、ワンピースの質素な服装ながら「和」のテイストを感じる姿に見惚れて、足を止めた。
迷子かと察する人もいたが、迷子センターに突き出すような年齢には見えない。20前後だと彼女の目撃者達は予想していたからだ。実際、17歳なので「迷子」とは言い難い頃合いだろう。
「輝歌」は懸命に走ったが、闇雲な捜索に異議を覚えて足を止めた。
手がかり――捜し人はエスカレーターを昇る最中、手すりに乗って興味深そうに1階を眺めていた。
実はもっと下なのだが……とにかく輝歌は「2階にはいない!」と判断した。
通り過ぎたエスカレーターを目指して再び駆け始める輝歌。逆走してきた少女の姿に「様子が変だ」と、さすがに放っておけなくなる人が多数――。
その内の一人が目の前を通る少女に声をかけた。
「ちょっと、お嬢さん。誰か探しているのかい?」
呼び止められて素直に立ち止まる輝歌。
彼女を呼び止めたのは「宝石店の店員」である。
店……と言っても店舗として百貨店に腰を据えているのではなく、一時的にフロアの空いたスペースで「出店」として開かれているショップだ。
「あんまり走ると他のお客さんに迷惑になるからね。気を付けなさいよ」
若太りの店員は少し目に余っていた少女の疾走に注意を促す。
「あ――も、申し訳ありません」
輝歌は慌てて深く頭を下げた。
若太りの店員的にはそこまで謝られると逆に恐縮する。
「うん、これから気を付ければいいさ。――それで、誰か探しているのかな?」
見た目通りに温かな口調である。
輝歌は「白虎」の特徴をジェスチャーと共に伝えた。
「ああ、その彼なら――」
どうやら店員は白虎を目撃していたらしく、エスカレーターを下ってからさらに階段を下って行ったと教えてくれた。
「えっと、1階の下ということですか?」
「うん、そうだね。地下1階。“食料品売り場”だね」
「なるほど~。どうも、ご親切にありがとう御座います」
また深々と頭を下げる輝歌。やっぱり店員は恐縮する。
「それでは―――」
顔を上げようとした輝歌の瞳に、宝石や貴金属で作られた装飾品の数々が映る。
百貨店の出店だからか。そこまで高価すぎるものは置いておらず、シルバーアクセサリーを中心に動物などを模ったやたらと可愛らしいものが多い。骸骨なんて一個も無い優しさっぷり。
「わぁ、綺麗で可愛らしいですね~」
輝歌はガラスのケースに入っている装飾品の数々を眺め始めた。
可憐な少女に褒められたからか、若太りの店員は鼻先を弄って目を反らす。
「一応、全部僕の手作りでね――そんな大した物ではないけど……ふふっ」
明らかに嬉しそうな店員。
「あら~、凄いです! 全部お作りになられたのですか。とても器用でいらっしゃいますね」
輝歌はにこにこと、本心からの賛辞を惜しみなく店員に贈る。店員は「たはっ! まいっちゃうな、もぅ!」とモジモジし始めた。
モジモジな店員を尊敬の眼差しで見つめてから、彼の製作物達に視線を移す。
装飾品には哺乳類や海獣を模ったものが多い。他にも魚や爬虫類の中でも、比較的可愛い部類にされるものも模られている。
そんな中、ショーケースの端っこに隠すように追いやられている一群……。
「あの~、この子達はどうして隅っこに在るのでしょうか?」
「え――ああ、“昆虫”はねぇ……子供には受けがいいけど、アクセサリーを購入する層にはちょっと……」
一応は自分の愛する作品である。店員はやや口調を濁して返答した。
「あららぁ――でも、私はどれも愛くるしいと思いますよ」
そう言ってもらえると職人冥利に尽きる。店員はモジモジしつつ顔を赤らめた。
「あ、これって――」
ショウウィンドウの角っこ、ケースの最僻地。
そのペンダントはやはり銀で作られていて、一際リアルな造形をしている。
【蝉】を模ったそれの目はラズーライトの青で彩られ、小さいながらも際立った存在感を持っていた。
―――ただ、先ほどの店員の話からして。一際生々しいこれは購買層にマッチしていないと判断されたのであろう。隠すような位置にひっそりと置かれている。
ふと、何気なく今朝のことが輝歌の脳裏に思い浮かんだ。そういえば、最初に会った時も彼は蝉を掴んでいた……。
「あの、それを購入したいのですが―――」
「ぅおっと、お買い上げかい? ありがとう、ありがとう!」
購入の希望を聞いてしつこいくらいに感謝する若太りの店員。それだけ嬉しいものなのだろう。自分が手塩にかけたものが売れるということは。
「いやぁ、嬉しいなぁ! そうそう、これをネックレスにするにはチェーンも合わせた方が良いよ。お勧めのものはだね・・・」
商売口上と共にショーケースの裏から蝉のペンダントを取り出していた店員の頭上に“財布が丸ごと”差し出されている。
店員はこれの意味が解らず、困惑した。
「うんっとぉ――ハハハ! そんなお高くないよぉ、僕の作品はっ☆」
見た目と違って結構お茶目なのかな、と店員は輝歌の“ジョーク”に答えてあげた。
「???」
輝歌は微笑んだまま、財布を下げる素振りを見せない。
ジョークが継続しているのだろうか……思ったより粘っこいユーモアセンスの持ち主だ。
店員は若干引いていたが……。微笑む輝歌の目を見て「アッ、これは本気だ!」と理解した。
(少し変わっているとは思ったが……ここまでくると電波の領域か? いや、違う! そんなこと思っちゃいかん! きっと純真なんだ、汚れ無き乙女なんさ。お嬢様ってやつだな!)
店員は胸の内で色々と整理をつけてから。
「お嬢ちゃん。お支払いは値段に見合った紙幣を選んで渡すんだよ。財布丸ごとはノンノンっ!」
店員に言われて「そうなんですか? 申し訳ありません……」と、深々に頭を下げる輝歌。
三度恐縮した店員は、次に「お釣り」というシステムを説明する必要性に迫られた………。
ACT-4 /Scene1
「うおぉっ、居ねぇ!!」
乙女の唸るような声がNUNIQLO店舗に反響した。
「奈由美」が焦燥感に駆り立てられているのは、迷子が2人発生したからである(*輝歌と白虎)。
「あああっ! どうしよどうしよっ、どうすんの!!?」
少女は隣の茶髪頭を引っ張り、酷く錯乱した様で訴えた。
「解った、解ったから。髪はやめろ!」
「朱雀」は少女を引き離してから髪を手櫛で整える。
「――手分けして探すぞ。お前は下、俺はここから上。OK?」
押し出すように奈由美を弾き、エスカレーターを指差す。少女も指示を理解して、さっそく駆け出した。
この時、朱雀の脳内は「煙への欲望」で満ちており、これが適切な判断であったとは言い難い・・・。
朱雀は奈由美と別れると、足早に屋上へと向かい始めた。
迷子の2人も気になるが(とくに輝歌)―――同時に、“喫煙室が見当たらない”のは重大な問題だからである。
こういった施設の喫煙スペースは「屋上の自動販売機が設置されているような僻地」か、「建造物の角、ATMが設置されているような隅~っこの壁越し」の屋外にあったりする。というか、そもそも“無い”って場合も多い。
非常事態の最中だが、軽視できない問題だ。
「まずは一服」―――それが「ニコチン使い」としての基本的な発想である。
しかし、それにしても彼の脳は鈍りすぎである。
昨晩から喧しい女と話していたせいか、朱雀の脳回路に混乱が生じているのであろうか。
人の波長を乱して騙す男は、逆にピッタリと波長が合ってしまう人間には弱いものなのかもしれない。
「―――おっ!」
屋上にある駐車場との境目。大手メーカーの自動販売機が3台並んでいる。
その小休止の空間・・・から弾かれるように、自動ドアを挟んだ野外にポツリと喫煙スペースが存在していた。
どれほど儚くとも、あれば良い。
灰皿を確認して少し冷静になり、コーヒーを買う余裕もできた。金の缶を取り口から取り出して、咥えた煙草に着火しながら外に出る。昼を過ぎてピークの狭間にある時間帯でも。特売日には常に、駐車場所を探して彷徨う車が後を絶たない。
(――ったく、くだらんことでいちいち騒ぐからこうなるんだよ)
朱雀は灰色の煙を日差しの強い空に浮かべた。
(輝歌はきっと虎を追いかけたんだろう……まぁ、あれで虎も女にはアマイからなぁ。案外先に逸れたのは輝歌で、それを追った、とか――-無いか)
体内のストレスが吸い込んだ煙に吸収され、煙が吐き出されるたびに解消されていく気分。徐々に冴えてきた元来狡猾な男は、落ち着いて状況を整理していく。
(大体、虎が百貨店で行くところなんてアレだろ、食料品売り場しかねぇじゃんか。焦ることもねぇ……真っ直ぐ地下の食料品売り場に向かって、あいつを捕獲すればO・K! 何かしら壊される前に、急がないとなぁ~)
脳が冴え渡る爽快感で、ちょっと快楽過多気味に呆ける朱雀。
そして、彼はすぐに気が付いた。
(―――あれ、じゃぁなんで俺は屋上に上がったんだ???)
……晩夏の日差しが目に厳しく差し込む。
駐車場のアスファルトは焦げて、遠くの車は蜃気楼に揺れている……。
「何やってんだ!」と今日の自分に心底呆れつつ。朱雀は地下へと疾走した―――――。
ACT-4 /Scene2
大型百貨店の地下――そこには菓子類から魚介類専門店、酒屋に地方グルメなどの食品専門店街が存在。また、販売スペースの隣にはジャンクフードやラーメンなどの各店が鎬を削っている。
そんなデパ地下の一角に居を据える、自家製ハム・ソーセージ等を販売する専門店、「美肉屋」。ここで実演販売のパートをしている主婦、【奥菜 香苗[おきな かなえ]】(29)は仕事開始一月目にして重大な危機に直面していた―――。
香苗はいつものように(ポーク)ソーセージを適量パックから取り出し、1本を4つくらいに切り分けて鉄板で焼く作業をこなしていた。
子供が保育園に通っている時間帯に、暇を持て余していたので、家計の足しにと始めたパートである。しかし化粧品界で「販売の鬼」として活躍し、若くも寿退社で業界を去った香苗は「物を売る」ことに飢えていた。どっぷりとのめり込むつもりは無いが、己の欲求と家計の補助を両立できる、良い職場だと香苗は満足していた。
―――ところが。香苗は引退したその身で「セールスとは“お客様”あってのものだ」ということを強く再確認することになる。
今、香苗の目の前で立ち尽くす小柄な青年―――頭髪は黒く剛毛で刺々しく、見た目にも「普通の男性ではない」ことが理解できる。
それでいてこの青年は、、、一言でいえば「人の姿をした野生動物」といった感じで、暴力的な脅威が対面してギャンギャンと伝わってくる。とてもではないがコミュニケーションを取ろうとすら思えない。
「お客様」ではなく、「ただの動物」が相手ではセールスウーマンとして分が悪い……その前に勝負の前提が成り立たない。
青年はほとんど言葉を発さず。「うめぇ!」「もっと!」の2種類しか解していないのか、と思うほどに語彙が乏しい。
無言の内ですら「さぁ、肉を焼け・・・」という強大な意思は何故かひしひしと伝わり、香苗は野生の圧力に屈服して「開封→切り分け→焼く」という作業を繰り返している。
このままでは上りが出ず、自分の受け持ち時間で赤が出てしまう……。香苗の販売員としてのプライドは今にもへしゃげようとしていた………。
「あっ、トラさん!」
販売員の絶体絶命なる危機に、暴力的な圧力を放つ青年へと親しげに声をかけた少女の姿。―――それは香苗の瞳に、輝く翼を広げた天使のように――もしくは絹の羽衣を纏った天女かのように映っている。
「よかったぁ~、見つかって。さぁ、ナユさん達の所に戻りましょう」
輝歌の呼びかけに反応してか、くんくんと鼻をヒクつかせながら天井を見上げる白虎。
「ん、あらら~これは美味しそうなソーセージですね~」
香ばしい豚肉の焼けた匂いを輝歌の嗅細胞が察知した。
――奥菜 香苗にとって、この瞬間は岐路だった。
この時、彼女が流されるままにパックを開封してしまっていたら、物を知らない眼前の少女は「わぁ、食べていいのですか~?」と、試食品を無償の親切と信じてパクついたことであろう。
そうなれば、例の青年も一層勢いに乗ってポークソーセージを貪り、店舗の精肉製品は壊滅していたに違いない。
香苗には販売員のプライドが残っていた。彼女は少女の「美味しそう」という言葉に本能で応じることができたのだ。
「こちら、お買い得で御座いますよ、お客様!!」
半泣きにも練りだしたこの言葉は、値千金の効果を発揮した。
「あっ、そうでした。お金で購入するのです」
輝歌はいそいそと肩掛け鞄から財布を取り出している。その横で鉄板に残っているソーセージを鷲掴みにする白虎。
「あらあら、トラさん。買ってから食べないとだめですよ?」
少女の細い指先が、白虎の剛腕を制した。
……自然な言葉。輝歌には白虎への恐怖だとか、遠慮だとかはない。
ともすれば獣として畏れられるような青年に対しても――対等な人間として無警戒に接することができる、“広大な許容力”がその細身に備わっている。
白虎はジュ~ジュ~と拳を熱されつつも、掴んだ肉を口に運びはしない。
「そ、それは試食品なので、どうぞお食べくださいませ……」
鉄板上に拳が乗っかっている光景に耐え切れず、香苗が震えながらも試食を勧める。
「え、購入しなくても食べていいのですか??」
「い、いやいや! それだけ! その鉄板の上のだけですよ!?」
これ以上食われてなるものか! と、香苗は必死に説明する。
「こちらのパックは購入していただかないと食べられませんから!」
「なるほど、そういう仕組みなのですか……トラさん御免なさい。それは食べていいそうです」
輝歌のか弱い手が白虎の剛腕から離れる。白虎は解き放たれた勢いのままに、掴んだ肉を頬張った。
「(もぐもぐ)……うめぇ!」
「わぁ、それはよかったです」
「もっと! 輝歌、もっとこれ!」
白虎は激しく熱されている鉄板を叩いて催促した。
「はい、解りました。え~と……そうです、お値段を聞いてからお札を出すのですよね!」
輝歌はニコニコと微笑みながら販売員・香苗に値段を聞く。
「は、はい。それでは、お幾つお求めでしょうか?」
違和感はあるが、ちゃんとした「お客様」とのやり取りに香苗は安堵した。
「・・・数? ああ、そこの全部で1つではないのですか。そうなると……う~ん???」
小首を傾げて理解しがたい疑問を呟いている少女。これはこれでまともではなさそうだが、香苗としてはこの場が丸く収まればもう、なんだっていい心境だ。
輝歌は購入数を問われて困っていた。
一食分あればよいのかな? などと考えていた彼女の傍らでは、野性的な青年が山積みのソーセージパックを睨みながら、涎を鉄板まで垂らしている。
「トラさん……」
「――――」
目を合わせてはいない。しかし、その逞しい背中は雄弁だった。
「えと―――全部購入してよろしいでしょうか?」
輝歌は当たり前のことのように微笑んでいた。
販売員・香苗は「ぜ、全部ですか!?」と聞き返したが、「はい」と、すぐに良い返事が返ってきた。
どうやら、財布の中身はどの道消え去る運命だったらしい………。
結果として―――危うく販売員のプライドを折られそうにはなったものの。
香苗はこの日、「ソーセージ完売」という成果を上げることができた。
穏やかな少女と小柄な青年が並んで歩く後ろ姿。
青年はソーセージを2袋だけ握りしめている。
「まさか、引退してからこんな試練を受けるなんてね―――ふふっ、奥が深いわ。この世界」
頂点を極めたと思い、引退した販売という職で……自分のなんて小さなことか。
奥菜 香苗は子育てに一区切りが付いたら、またカムバックしようと決意する。
「ありがとう―――」
無心のまま、香苗は敬礼の姿勢をとっていた。それは大量に購入してくれた“良いお客様”への感謝だけではない。
大事なことを自分に教えてくれた、その事に感謝して―――。
<もぐもぐ>
「あら、ダメですよ、歩きながら食事をしては」
「そうか! なんでだ!?」
「オバケに憑りつかれるから……って、爺やに教わりました」
「オバケは強いか!? 俺と戦うか!?」
「う~ん、強いでしょうねぇ。でも、きっとトラさんなら勝てますよ!」
「わははっ、オバケ強いといいなぁ!!」
……噛み合っているのか食い違っているのか。
結局、白虎は歩き食いを続けているのだが。すでに2人の意識は「食べ物オバケ」に向いている。
「うぉっ、見つけた! 2人一緒かー、OK・OK!」
ほけ~っと歩いている白虎と輝歌に、茶髪の男が合流した。
「朱雀」は軽く息が上がっており、呼吸器官の弱体化がその身に感じられる。それでも止められないものは止められない。
「アルフレッドさん、迎えに来てくれたのですね。有難うございます」
深々と感謝の意を伝える輝歌。
「これは俺の!」
先手を打ってソーセージパックを抱き込む白虎・・・正直、迷子になった揚句に「迎えに来て有難う」は朱雀にとって挑発にしか聞こえないが・・・輝歌だから、と許した。
ならば、苛立ちはどこへ向かうのだろう?
<ゴチッ!>
――鈍い音が固い頭で奏でられる。
「なんで殴る!?」
ダメージは無いが、怒られた理由が解らず警戒する白虎。
朱雀は痺れた右手を振りながら、判決を言い渡した。
「―――お前、夕飯無し」
「――ッ!!???」
それは、冷酷な判決だった……。
白虎は強いショックに猛抗議を開始する。しかし、猛禽にも似たその眼光に一睨みされると、いじけた猫のように無言となった。
「え、え、そんな! どうしてトラさんが???」
輝歌も必死に異議を申し立てる。朱雀は聞く耳持たず「帰るぞ」と答えて歩き始めたが……。
「私も同罪です! 私の夕食も抜いてください!」
・・・可憐な少女にそこまで言われたらしかたない。
自分達の監督不行き届きもあるっちゃあるので―――特別に見逃すことにした。
「よかった、よかった」と安堵する輝歌。
しきりに額を手で掻き、未だ落ち着かない白虎。
一件落着、これ以上の面倒は御免だ――とくたびれた様子の朱雀。
体調不良(寝不足)で慣れないことをするもんじゃぁないな……と彼が肩を落とした時。
百貨店にアナウンスを報せる音が鳴り渡る―――。
『ご来店のお客様にお報せです。東京都某所からお越しの天上 輝歌様、白虎様、“アルフレッド=イーグル”様。1階、お客様サービスセンターにて高山 奈由美さんがお待ちしております―――』
「あらあら、ナユさんを待たせてしまったようです……どこで待たれているのでしょうか?」
輝歌は、アナウンスに従おうとしている。
「………」
白虎は、変わらずいじけている。
「……ナ―――は??」
朱雀は口を開けたまま―――硬直していた・・・・・・・。
ACT-5
輪国製の光沢が強い赤のスーパースポーツカー。
主の気性を現すように、効率的にも他を配慮しない、ガサツな様で都内の国道を駆け抜けていく。
車の中。男女4人は買い物の帰路にあった。
「……だから、悪かったってばぁ」
眉を下げてバツが悪そうに口を開く助手席の少女。
「――――」
「だ・・・だって、だって! 迷子センターって書いてあったから……つい」
「――――チっ!」
左のハンドルを握る茶髪の男は、缶入りのコーヒーを喉に流し込み、己の言葉を押し戻した。
「………ああやって放送すれば見つかりやすいかな~、ってね!」
えへへ、とはにかんでみる少女。
「―――俺まで呼ぶことないだろ。俺も迷子か? あ゛ぁ?」
男は前髪をかき上げながら、強引に隣の車線へとハンドルを切る。
荒っぽい運転に、助手席の少女は目を見開いて一瞬、口を閉じた。
「――い、いやぁ、ついでというか……どうせなら全員呼んじゃえっ、て――」
「ああ、つまり“ついで”で俺に恥じかかせたんだ」
<ヴォン>、と直線で急加速する車体。 冷めつつも、厳しい口調の男。
助手席の少女はなんだか悲しくなり、同時に腹も立ってきた。
「………ちょっと過敏すぎない? なんでそんな言い方するかな」
「キレてるからだろ。昨日からぐちぐちぐちぐち……」
「――――私には冷たいよね」
赤の信号に捉まり、車体は丁寧に停止する。
「・・・・・いや、冷たいっつか。お前の――あーっと……」
助手席の少女は口を閉じて、窓の外を眺めはじめた。
運転者の饒舌だった言葉の回転は止まり、沈黙の冷めた空気が車体の前半分を包む―――。
後部座席には清楚な少女と、小柄ながらも筋肉質な青年が座っている。
2人は初めからあまり会話をしていない。だが、後部座席は実に穏やかな空気に満ちており、前方との温度差は凄まじいことになっている。
会話が無いのは2人がお喋りではないというのもある。しかし、何より小柄な青年が熟睡していることがその理由であろう。
随分と緩急のある、激しい運転ではあったが。この野生っ気に満ちた青年にとってはかえって心地良いのかもしれない……。
清楚な少女は幸せそうに眠る青年を穏やかな視線で見守り、時折前方から聞こえてくる怒声に驚きながらも平穏な時間を過ごしていた。
「そうそう、そうでした!」
と、何かに気が付き、清楚な少女は肩掛け鞄からプラスチックのケースを取り出した。
ケースを開くと、そこには「蝉(セミ)を模った銀のネックレス」が入っている。
清楚な少女はそのネックレスを、そ――っと、眠ったままの青年の首に掛けた。青年は蝉が気になるらしく、いつも彼らを追い掛け回している姿を、少女はよく見ていた。
「ふふっ、気に入ってくれるでしょうか?」
少女の鼓動が少し速くなったのは、この青年がネックレスを千切ってしまうかどうか・・・という心配のせいではないだろう―――――。
温度差の激しいスポーツカーが東京所の某所に到着した頃。
ある大型百貨店から、「大量のポークソーセージ」が購入者に向けて発送され始めていた・・・・・・・・。
