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遊戯考察|大人の趣味とは? (カードゲームの疑問)


第一章 「TCGとは何か?」

犬:1-6(最終項) TCGの問題 (ゲーム要素そのものが抱える根本的な問題が出現します) ------------------------------------------------------------- ○ 競技者よりも消費者  「競技」として成立させるにあたり、現在問題となっているのは「キャラクターTCG」である。前述したように、「漫画やアニメのタイアップ」であるキャラクターもののTCGは売り上げが上がりやすい。購入者も元となった作品のファンが多く、安定した利益が見込める。  ただ、その分「キャラクターや原作の世界観」が重視され、「ゲーム性」を軽んじるルール的に「雑」なゲームが多く、競技として成立するものが少ない。  競技として成立しない主な理由としてはゲームバランスの崩壊(ゲームを行う上で「突出して強いカードが存在している・ルールに穴が多すぎてゲームとして成り立たなくなる現象」)が挙げられる。  また、あからさまに「強いカード」を製作して売り上げを伸ばし、その後それを「禁止カード」として試合での使用を禁じてゲームのバランスを保つ手法が『MTG』『遊☆戯☆王』でも行われている。『MTG』は「意図しない強カード」がかつては多かったが、最近になって『遊☆戯☆王』への対抗心か、「明らかに意図された強カード・新ルール」が増産されている。  だが、「キャラクターTCG」は競技として成り立たなくても、「売り上げ」は高い。それはつまり、他の「競技系」であるTCGの購入者を減少させることに繋がる。  そして、現在販売される多くのTCGが「キャラクターTCG」であるということは、「TCG=キャラクターTCG」という認識が強まっているということにもなる。  現実に、『遊☆戯☆王』と『MTG』の知名度、販売数には大きな開きが存在する。 *これにはゲームの発祥地による「言語」の問題も絡んでいる。  『MTG』は日本語版も販売しているが、英語版の方が安価のため、英語版を構わず用いることが望まれる。だが、英語表記を解読するのが面倒だと思う人が後を絶たない。これが『MTG』の不利な点である。 ------------------------------------------------------------- ○ そもそもの課題  競技系のTCGにはそれ自体にも問題がある。  TCGは所持しているカードの枚数によって大きく戦力が変化するので、古参プレイヤーと新規プレイヤーの戦力差が顕著に現れ、それらの対戦では戦力的に公正な勝負はまず行えない。「競技」を主軸としているのに、その「競技」がまともに行えない状況では、売れるわけがない。キャラクターTCGはキャラクターの人気や作品のファンによって売り上げを確保できるが、競技系TCGにはそれができない。  しかし、「競技系」としているのに「カードの保有枚数」で勝敗が大きく左右されることは問題である。「カードの保有枚数が多い」ということは、それだけ「金をかけた」と公言するようなものであり、それが勝敗に強く影響するということは「より多く金をかけた方が勝つ」という結論に繋がる。  カードの種類には限界があり、また、大抵のゲームではデッキに入れられる同じ種類のカードの枚数は制限されているので、一定量以上の枚数を互いに保有していれば「カードの保有数」が勝負に及ぼす影響も減少するだろう。だが、それは「競技」としていかがなものであろうか。  また、「競技」という観点でTCGを考えた場合。「将棋」と「TCG」の大きな違いは『対戦者の戦力差』にある。  将棋は使用できる駒が決まっており、初期の配置も定められている。つまり、ゲーム開始時には互いに「互角」の状態である。  TCGの場合、使用できるカードの枚数や種類に若干の制限はあるものの、互いに持ち寄ったデッキがまったく同じということはほとんどありえない。また、デッキ(戦力)を全て常に使えるわけではなく、ルールに定められた枚数を「手札(山札から引いて手元に置くカード)」として持ち、その時点ではその「手札」の範囲が戦力となる。  手札の枚数は多くても7~8枚程度なので、それが60枚のデッキである場合、初期の時点では50枚程度が「戦力として数えられない」ということになる。その後、それぞれのターン(番)にデッキから補給(ドロー)できるカードは多くても2枚といったところ。大抵は「各ターンでのドローは1枚だけ」というルールを採用している。  要は、TCGには「運」の要素が強いわけである。  将棋はそのゲーム性質上、ゲーム展開に直接「運」が関与する事はない。「打ち手が急に腹を下す・他に重要な問題が発生してそのことに気を取られる」といったゲームのルール上に無い、例外的な「運」は絡むが、ゲームそのものに「運」を必要とする要素はない。  「運も実力のうち」とは言っても、「競技」は一般的に身体能力や技術、思考能力などを競うことを目的としている。「身体能力」を必要としないテーブルゲームにおいて、技術と思考能力は残された競うべき項目である(ターン制なら尚更)。だが、それ以上に「運」が重要な場合、それは競技として成り立つのであろうか。 ------------------------------------------------------------- ○ 先輩に学ぼう  「運」が強く絡むポピュラーなテーブルゲームに「麻雀」がある。  麻雀も積まれた牌から定められた枚数を引いて「手牌」とし、番が回ってくると1牌引くという形式で行われる。このルールはTCGと非常に近いものである。  高度な心理戦や役に関する知識や発想が必要となるが、積まれた牌から引いてくる牌が打ち手に不明であるため、どうしても「運」の要素が強くなる。麻雀にもプロは存在するが、専業で生計を立てることは困難である。しかし、プロとして成り立っているとは言い難いが、麻雀の競技人口は多く、趣味としても公言することが可能である。  同じテーブルゲームでプロの存在が曖昧な麻雀とTCGの大きな違いは、何であろうか。  歴史の違いもあるのだろうが、やはり「戦力」の概念差が大きい。引いてくる手牌はランダムとはいえ、麻雀に使用する牌の種類と数は定められている。  「戦力」を自分で揃えてそれが相手と混同する事がないTCGは、「戦力を揃える」というゲーム前のデッキ製作の時点で勝負が始まっているといっても過言ではない。むしろ、互いのデッキ相性によっては試合を始める前に勝負が決定している場合もある。これでは「競う」部分が試合ではなく、その準備にあるということになってしまう。  しかも、テーブルゲームはゲーム展開が「瞬間的」ではなく、「思考する時間」が多く設けられるものが大半なので、一瞬で状況が変化するスポーツよりも「運の要素(運がゲーム展開に関係すること)」が目立ってしまう。  パーティーゲームなら笑って許される不運も、大金が掛かった公式試合で起きたのなら笑い事では済まない。しかもその「不運」が「ダイス目が悪かった」「引いたカードが悪かった」などと、地味極まりない絵面のものが中心となる。それでは観客も冷めてしまうだろう。  「デッキ作り」というプレイヤーの独創性と戦略性を試すシステムは魅力的であり、TCGの強みであるが、この「持ち味」は競技として致命的な欠陥をもたらす。  デッキ作りは当然、「試合」に含まれない。つまり、観客にその様子を伝えることができないということである。大体、観戦料金を支払って人が悩んでカードを並べたり入れ替えたりしているだけの姿をだれが見たがるであろうか。それこそ、よほどの上級者やファンでなければ製作者が何をしているかも解からないし、面白くも何とも無い。  「競技」は「観客」ありきである。  近年の格闘ゲームなども取り組んでいるが、たとえ競技者ではなくとも、「見る専(見てるだけの人)」でいいからとにかく、人を集める・人の興味を引くことが重要となる。  野球やサッカーなどのプロスポーツを見れば一目瞭然であろう。観客数がそのまま競技の発展に繋がっていく……もとい、観客が増えなければ競技は発展しないのである。  こう述べると「矛盾」や「ひよこが先かにわとりが先か」を連想するが、事はそれらより単純。要はどちらの条件も満たせば問題が解決する話ということだ。 ------------------------------------------------------------- ○ 「玄人好み」は発展に繋がらない  前述(1-1 TCGとは何か?)に記述したが、TCGはゲーム環境によっては「ほとんど同じデッキ」が氾濫してしまうという場合が起こりえる。  TCGは「十人十色のデッキ」に近い状況で、自分だけのデッキで戦う事に大きな魅力がある。だが、「同じデッキ」ばかりではその魅力は失われてしまう。  「同じ趣旨のデッキ」が氾濫する主な原因は「強すぎるコンボ(複数枚のカード効果を合わせることで生まれる連携)」が発見されることにある。元祖競技系TCGとして名高い『MTG』もこれに長年悩まされている。「ネクロディスク」「Moma」という名称がつけられたデッキの構成があまりにも優秀すぎるため、それぞれのデッキが機能した各大会が大荒れになった事件が特に有名である。  これら「強すぎる形式」が跋扈すると、それを狙い打つ「対策を持つ形式」が流行し始める。これの勢力が拡大すると、今度は「対策を施した形式に勝てる」形式が有力となり、これが栄えて「対策を持つ形式」が衰退すると、一週回って「強すぎる形式」が再び元気になる……この流れを『メタゲーム』と呼び、ゲーム性を高める高度な要因である。ちなみに、「メタ」はゲームに限らず、生物のサイクルからすでに発生している概念である。  ――ところが。「メタゲーム」は相当その業界に精通しなければ理解できず、面白みも解からない。これまた『一見さんお断り!』の風潮を生み出す元となり、新規参入者の毛嫌いを生んでしまう(メタゲームは、界隈の人間にとてはとてつもなく楽しいものなのだが、外界の人からすると「内輪での馴れ合い」として見られやすい。今の音楽業界はこれに嵌っているのではないだろうか?)。  また、「どんなデッキにも入れられるカード」の存在も危険である。TCGの売りである「十人十色の個性」が薄れ、最悪上記のメタと合わさって全試合がリプレイ映像のようになってしまう。  「プロ組織」を成立させる為には「収入の見込み」が必要である。しかもその「競技内容」に収益の可能性が無ければいけない。なぜなら競技自体に魅力が無ければ、そのゲームをしたがる人などいないからである。  鍵となる、超えなければならない一線は“金を賭けて競えるか?”というライン。実際に賭博をせずとも、準備ではなく、勝負自体に身銭を切って挑む価値を出せるかが重要だ。  内輪で回しているとしか思えない(誤解されている状態)で、部外者が参入してくれなくなると限りある競技者内での資金が移動できなくなり、それは「賄賂以外に身銭は切れない」ことへと繋がるだろう。 ------------------------------------------------------------- ○ 金銭外にある、抽象的な壁  TCGは歴史をそれなりに重ねてきたが、上記の問題なども残っており、まだ「競技」としての完成度が十分ではない。「キャラクターTCG」の場合は話が異なるが、ここにも大きな問題がある。  TCGが「インドア」な存在であることは疑いようが無い。だが、麻雀も将棋も普通は室内で行われるものだ。ここに横たわる大きすぎる違いは、「キャラクター」にこそある。 ――将棋の駒を思い浮かべてほしい。  駒に書かれているのは“漢字”のみである。 ――麻雀の牌を思い浮かべてほしい。  牌には“漢字”もしくは“記号”が描かれている(“白”は何も書かれていない)。  「キャラクター」が存在する限り、どうしても「アニメ・漫画」といった「オタク文化」がイメージされてしまう。しかも現在の主流は「キャラクターTCG」であり、それの多くはアニメや漫画、他のゲームとタイアップしており、否定はできない状況である。  社会的に認められる為には「大人」が行うものとして広い認識を得る必要がある。これについては“第二章”で検証するが、現時点で「オタク文化」は胸を張って言えるものかというとかなり疑わしい。「漫画家」「アニメーター」などの製作側が評価される場合はあるが、それを読む「読者」がもてはやされるわけではない(ただしイケメンは除く)。  TCGゲームのプレイヤーは「製作側」ではない。スポーツと異なり、道具を用いなければ行えないというレベルではなく、道具そのものが戦力となる。「野球のバットの質」と「TCGのデッキの質」とでは試合への影響力がまったく違うのである。  「競技系TCG」は「収集」よりも「競技」で人気を博すことが目的であり、その趣旨から外れてしまえばただの「トレーディングカード」か「キャラクターTCG」となってしまう。だが、「キャラクター要素」が無ければ他のキャラクターTCGと勝負にならない(特に多くのキャラクターTCGとそのタイアップ元の産出国である日本において)。  「社会的な立場を保てるレベル=それで生計を立てていける」競技ジャンルとなるためには、どうしても「競技」で魅せる必要がある。キャラクターのイラストやタイアップ元の力で売れたとしても、それはアニメや漫画の副次的産業に過ぎない。「キャラクター」との「タイアップ」にすがっている限り、所詮はタイアップ元のオマケゲームである。  『MTG』には「プロ組織」が存在し世界大会も行われているが、麻雀と同じように、それだけで生計を立てることは非常に難しい。  得た知名度で『MTG』関連の記事を書いたりすることで収入は得られるが、これでは「スポーツ選手」よりも「評論家」に近い。それはそれで「プロ」としては正しいのかもしれないが、「スポーツ」とは違って「インドア」なTCGはそのイメージを明るく演出する必要がある。よって、それは本研究が求める姿とは異なるものである。  『TCGと関連性がないTVCMに起用されるプロプレイヤーが変ではない環境』が理想系といえる。 第一章 「TCGとは何か?」 結
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