―本章、神の節― 後ノ事

            動景 11、「 終幕 」   :        :        :  東京都、某所。  真夏の陽射しがビルの窓に反射する。さながら昼の星空とでも例えようか。  高層ビル群に紛れるように佇むボロ屋。買い換えたクーラーが勢いよく唸っている。  ――― 東京 ―――今や多アジア人都市となりつつあるこの街に。世界の極々一部にだけ評判の小組織が住み着いている。  彼らはまだ若くとも、類稀なスキルを持ち、そして多くの事を成してきた。・・・同時に多くの問題も残してきたのだが、そのことで彼らを責めても仕方が無いし、無駄なことである。  この若きワケ有り家業屋集団。不本意ながら名を、『四聖獣』という。  さて、そのボロ屋の中。  台所と居間の間にある6人掛けのテーブル。向かい合って座っている男女。  赤茶髪の青年は不機嫌そうに缶コーヒーのタブを起こした。  白と水色の縞模様の服を着ている少女。組織のリーダーである彼女は頭を抱えている。 「気づけよ」  赤茶髪の青年が口を開いた。 「無理よ。あんなの解るわけないじゃない……」  苦々しく言葉を返す少女。テーブルの上には、雪山のような紙の数々。伝票とか文字で埋まっている請求書やら質問状やら……。家計は火の車どころかビッグバンの爆発にある。  『驚愕! 白昼に聳える巨大ロボ!!?』の見出しで騒ぐTVの画面。 「おおっ、また映った! ねぇ、見てよ! 映ったよ!」  はしゃぐ長い金髪の青年。その言葉を無視して溜息をシンクロさせるテーブルの男女。  巨大なロボの建設費もそうだが、プール改造の費用、その他もろもろも含み。並の企業単位なら一見の下にギブアップを叫ばずにはいられない、そんな破壊的金額。空間移動にかかった電池代6000万などどうでもよくなってしまう。 「どうしようか・・・」 「どうしようも糞もあるか! 姉さんやら爺が汗水流してもこの騒ぎだからな」 「……ぐすっ」 「――ったく、ほんと、しゃぁねぇっつぅか……」  ちょっと目を放した隙の惨状に疲れ、コーヒーを一気に飲む。  少女は目の前ですこぶる機嫌が悪い青年を見て、しょんぼりとうつむいた。 「――食え」  テーブルに置かれる2つのプリン。会話に割り込んできたのは青い髪の料理人。  ぷるると揺れるプリンを眺める少女。赤茶髪の青年はいぶかしげにスプーンを手にした。   口に広がる――甘くて柔らかなプリンの香。 「……ほんと、お前はこの辺は解ってやがるよな」 「ね! 美味しいっ」  少女はあまりの美味に他を忘れて微笑んだ。  微笑む少女の面を見せられては、青年も仏頂面を保てない。若干に緩む表情を溜息で隠して、青年はスプーンを持つ手を進める。 「これほどの巨大な障害……誤魔化しの術も多いのだろう? なぁ、スザ」 「――ケッ。こんな時だけ達者な口だぜ、ったくよ」  憎らしく口の端を上げる赤茶髪の青年。  青い髪の料理人は「フ」と残して作り途中の味噌汁へと向き直った。 「ああっ、プリン! 僕のは!?」  金髪の青年がひょいとテーブルに顔を出した。 「プリンっ!? 食うぞ!! どうだこれ!!!」  家屋の声を聞き取ったのか。庭の木から全力で玄関を突き破った野生系の少年。  掲げた左手には、「ミンミン」と鳴く輩がもがいている。  テーブルの男女は「やれやれ」と首を振り、料理人は「ちょっとまってろ」と呟いた。  どさくさで紛れてしまっていたが…… 「あの、すみません……」  何度目かの呼びかけで、ようやくその声に気がついた五人。  開けっぱなしの玄関(勝手口)に立つのは、白いワンピースの女性。 「たびたび、突然押しかけて申し訳ありません」  玄関で頭を下げるワンピースの女性。  立ち上がる、スプーンを手にした少女。 「あの、すみませんが……やっぱり家に帰るのが気まずいので。もう少しだけ、泊めてもらってもいいでしょうか?」  緊張しているのか、申し訳なさが一杯一杯なのか。頬を染めているワンピースの女性。 「テルちゃん!」  黄龍が笑顔で女性の名前を呼んだ。 「おおっ、輝歌! 見ろ、テレビ!!」  玄武が誇らしげにTVの画面を指差している。 「――これで食卓の席が埋るな」  青龍が味噌汁の味見をしながら微笑んだ。 「輝歌、OKだ。俺はいつだって君を歓迎するよ」  そう言ってワンピースの女性をエスコートする朱雀。  対応がスムーズ過ぎるその腕を掴み、「この汚い手を離せ!」と黄龍が二人を引き離そうと躍起になる。 「あらあら?」  と、目を点にしている輝歌。  白虎はよくわからないけど、皆が楽しそうなので 「ガッハハハハ!!」  と胸を張って笑った。  手にしていた蝉は再び飛び立ち、裏手の玄関からするり、庭へと逃げて行く。  即座、「プリン! バケツのプリン!!」と響く虎の声。  料理にプリンに来客に。そして控える洗濯物の山に苦悩する料理人の秘めた心情など、いざ知らず……。  ろくすっぽ使われない2階の角部屋。今日からここには清楚な少女が寝泊まる。   ベッドの脇には。   乱暴ながらも、しっかりと持ち帰った強敵の名残が立てかけてある――――――――。      :      :            : 『 辰羅神信仰 』  これにて......     終・幕  ――――です。長文の御読破。感謝、感謝で御座います。 ↓以下、人物名等の表記↓ 主要登場人物  劇中名、本名の一覧 黄龍 ―― 高山 奈由美(たかやま なゆみ) 玄武 ―― アーティ=フロイス 青龍 ―― 青山 龍進(あおやま りゅうしん) 朱雀 ―― アルフレッド=イーグル 白虎 ―― 白虎(びゃっこ) 輝歌 ―― 天上 輝歌(てんじょう てるか) 金色の狐 ―― 光天館(こうてんかん) 黄土の狐 ―― 然汪館(ねんおうかん) 緑色の狐 ―― 無双館(むそうかん) 紫色の狐 ―― 幻牢館(げんろうかん) 赤色の狐(八つ目の狐) ―― 辰羅神(たつらかみ)、及び「達沖」。 製作関連 物語 ―― 四聖獣 なんとなく ―― 四聖獣 それとなく ―― 四聖獣  文 ―― F。モ  絵 ―― 森人  お客様各位へのご案内  本編の閲覧、誠にありがとう御座います。当ストーリーは三部構成の第二部となっております。  第三部「羅の節」は『孤島遊び』と称して個別に投稿される“予定”です。  あくまで捕捉なので、あしからず……・・・ 。    以上!!                唯、感謝!  ―――と、いうことで。  「辰羅神」、完結です。  また別のお話にも目を通していただけることを祈りながら……サラバ! です!
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