この惑星の未来から/6

$四聖獣$ CALL1  ――もうもうと煙を上げ続ける排煙塔。複雑に入り組んだプラントのテラスで、灰色のスーツを着た男が遠方の友人と通話をしている。  クロノグラフを搭載した輪国製の腕時計が輝いた。 「踊りさ――上役が言うには鍵は“踊り”らしい。君はそういった事に心当たりはあるかい?」 『“鍵の踊り”だぁ? 知らね・・・あ~、待った! そう言えばこんな話がある。踊りで自分達の世界観・宗教観を伝える民族――なんつったかな』 「……それって、ちゃんと伝わるのか。だって踊りは言葉ではないだろう?」 『記録に用いる記号も、出始めの頃は象形文字だったろう。時に留まらない記号と考えれば――目で見る“声”とでも解釈すれば解らないこともない』 「う~ん――そうか。まぁ、どの道僕にはそこまで突っ込んで知る意味も薄いのだが……」 『ともかくありえない話ではないかな。その【少女】が何らかの意味を持つ特殊な踊りを踊れるって、可能性?』 「ふぅ――ならば彼女を五体満足に捕縛せよってのもなるほど、面倒な信憑性があるわけか。丁重に扱わねばなるまいが……」 『護衛がじゃまなんだろ? いいじゃん、そんな野郎殺っちゃえば』 「できれば穏便に対話で済ませたいね……しかし、今更生ぬるい解決は無謀かな」 『ひゃはっは! おぅおぅ、そうだな。女は丁寧に、男はゴミカスで良いのさ』 「君は変わらず極端だな。あまり良い性格とは言えないね」 『ありがとうよ・・・――ん!?/ ピッ 「? おい、どした~? ……なんだ、急に切って……」  突然に切られた通話。  疲れた顔つきの男はそこそこ心配そうに呟いた。 「何かあったのか、【アルフレッド】――――?」 ++++++++++++++++++++++++++++  ――この惑星の未来から――  Block4 | 考古学好きの友人A ++++++++++++++++++++++++++++ SCENE/1 ACT-1  延々と続く荒野を二分するハイウェイ――  走る屋根の無い車体――  くすんだ水色をオレンジの光が上塗りしている……  【ゾノアン】の刺客を車から放り出した逃走車は代わり映えの無い逃走経路をひた走る。  時刻は夕時にさしかかっていた。遠景に霞む山脈に、夕日がその身を潜めてゆく。  無計画に始まった【サナ】と【青龍】の旅だが、このままドライブを延々継続するわけにもいかない。迫る荒野の夜は冷えることだろう。屋根が無く、まともに冷暖房が利かない張りぼてのような車内で朝を待つにはあまりにも心細い。  ハンドルを握るサナはもう、4時間近く運転を続けていた。途中に何度か荒野で休憩したものの、動かなければ容赦のない日光が襲ってくる。長居はできなかった。  いいかげんに止まり木の一つでもないものかと、フロントガラス先を見る目にも必死さがうかがえる。 「――青龍、大丈夫?」  同乗者を気遣うサナが声を掛ける。夜の不安とサナの疲労もあるが、問題はそれだけではなかった。  左腕に亀裂を負い、熱ッつ熱つのボンネットの上でウェルダンに焼かれた侍はどうにも発熱したらしく、直射日光の時間にも背筋に寒気を覚える状態にあった。 「……平気だ、安心してくれ……」  元より覇気の無い口調だが、今は吹けば掻き消えそうなほどに弱々しい。  青龍は昨晩から数えて3つ、追跡者との戦闘を消化した。いずれも無傷では済まなかったので、全身がくたくたなのも仕方がない。応急手当の自家製湿布では回復の限度がある。  ――しかし、彼の発熱は外的要因のみが理由ではなかった。  彼はぐっとラバースーツの胸倉を掴んだ際に気が付いてしまった。勢いそのままにぶん投げてしまったものの、センチメンタルな純潔青年の心は「女性を投げ飛ばした……」という自責の念で満ちていた。  いや、責務を全うしたのだから恥じる事はない。仕掛けてきたのも相手だ。正当防衛だ……だが、そんな道理はこの青侍に通じない。  「やってしまった」感は拭えず、100km以上でアスファルトに叩き付けられた女はどう考えても生きてはいないであろうと、昨晩に続いて悔恨の思いが心を痛めていた。  根性だけで気を保っている青龍。  運転疲れに変化の少ない景色はサナの注意を散漫としている。  冷たい夜の時間が迫り、いよいよ危機的な二人にようやく光明が差しこんだのは幸運だったのか必然か。  ようやく微かな緑が目に映える。気が付くと、ハイウェイからやや離れた距離で、綺麗に整備されたイモ畑が並走を始めていた。  「モーテル」はこの辺一帯の大地主の趣味か酔狂か。反りの合わない妻と距離を置くための別荘を兼ねているのが実情らしいが、そんなことはサナ達に関係ないことであろう。  延々先が平坦なハイウェイで、ぽつんと荒野に差し込まれた看板は印象的だった。  サナは「やった、青龍、これで休めるよ!」と喜び、看板の示すモーテルへと車体に加速を利かせて行く。 「おぅっふ……うぷ……」  発熱している青龍は増加した速度に胃液の逆流を感じたが、これをグッと飲み下した。  逃走者の少女は鼻歌交じりにハンドルを握り、  顔色の悪い侍は胃液と戦いつつ、その頭髪と同じに顔を青く染めていた……。 ++++++++++++++++++++++++++++ CALL2  陽が傾いた。夕日はほとんど姿を消し、プラントの明かりが物々しくゾノアンの夜街を照らしている。それはまるで、監獄に射す警戒灯のように……。 『急に切って悪かったな。手癖の悪い阿呆がいたんで・・・』 「――相変わらず手際が良さそうだな、君は」 『モテる男は辛いぜ。成功者の咎かね』 「あ~、嫌だ。一度君は痛い目にあいなさい」 『へっへ、この前頬を張り飛ばされたよ』 「――まぁいい。で、もう一つ気になることがある。聞いてほしい」 『なんだ、“鍵の踊り”についてはこれ以上なんとも……』 「別のことさ――君、相棒がいるだろ? 高山と一緒に説得したとか言ってた……」 『相棒ぅ? ・・・ハハっ、召使だよ、あんな童○野郎!』 「まぁ、何でもいいが……確か、【青い髪の侍】……だったか?」 『ごもっともで。しかしなんでそんな――・・・あらら、おいおい、マジか』 「信じがたく鋭い男だな、君は」 『確かに今、家にいねぇ――そして、そうか。ジャスティア、ゾノアン……ロキ、お前は今、“そんな事態”?』 「どっちの意味でもそうなるね」 『――なるほど、手こずるわけだ。あいつは割と面倒だよ』 「で、頼みがある」 『Ok、いいよ。 ところで、俺は“無償の奉仕”ってやつを胡散臭く感じるんだよね。だってそうだろ? 無償ってのは代価を受け取らない代わりに受領の責任から逃れるってことだ。いくら懇意の仲っつってもねぇ……俺は逃げたくないのよ。責務ってやつからさ』 「うんうん、判ってる。君は正当です、決して“ガメツいガキだ”なんて僕は思わないです」 『話の解る大人って大好き♪』 「・・・そりゃどうも」  灰色スーツのくたびれた男は苦笑いで通話を終えた。  しかし、偶然とは恐ろしい。  思いもしないところで問題解決の糸口を掴めるとは――得てして、業務とはこんなものだと彼の経験は語っている………。 ++++++++++++++++++++++++++++ ACT-2  荒野のモーテルには無数の小さな電球で飾られた看板があったが、ことごとくこと切れていて実に見栄えが悪い。  舞い飛ぶ砂に晒された木造の外壁はシナモンパウダーを塗されたかのように粉っぽく、清潔感があるとはあまり言えない状態。  車をテキトウに停めるも、比較的青龍は限界そうである。  どうせ話しかけても「……大丈夫、平気だ……」と答えるのは解りきっているので、「待っててね」と返事も聞かずにサナは車を降りた。 (これって、もしかして営業してないのかな……)  あまりに寂れた状況からサナは祈る気持ちで、「事務室」と書かれた部屋の扉を開いた。  がらんと無人な室内を見てがっくりと肩を落としたサナだったが、幸いなことに店主は健在で、奥からのそのそと出てきてくれた。 「……1人?」 「ううん、2人だよ」 「…………何泊?」 「う~ん? ――解んないかな!」 「……一応、今日の分は前払いしとくれ」 「あっ、信用されてない」 「……そういう事言うかね、若者は」  金額を聞いてもう一つ文句を重ねながらも代金を払い終えるサナ。  チェックインを終えて車に戻り、満身創痍な様子の青龍を揺さぶり起こす。そして、「部屋借りたよ!」と言って彼の腕を強引に引っ張り上げた。 「おふっ……大丈夫、大丈夫です・・・・・・え?」  手を引かれてサナの思うままに歩いていた青龍だが、淀み無く扉を開いて部屋へと入っていく女の姿を見て呆然とした。 「どうしたの、青龍。早く入りなよ!」  快活な笑顔でそう言うと、サナはどかどかと室内に入って設備を物色し始めた。  青龍は入り口で立ち尽くしている。  熱で朦朧とする意識……荒野の砂が付着して乾燥した硬い表情……。  青龍が微動だにできないのは、何もそれらが理由というわけではないらしい。  その足元をこそこそとすり抜けた一匹の蝙蝠は、静かに静かに、こっそりと箪笥の裏へと忍び込んだ―――。 ACT-3  イモ畑から虫の鳴き声が聞こえる。電灯に寄せられた羽虫が窓に当たって、ばたばたともがいた。  陽はすっかりと沈みきり、代わりのつもりか、月が幾分と静かな明かりを荒野に落としている。  窓にぶつかる羽虫が気になり、コンコンとガラスを叩いて追い払う。  見上げてみれば、今日はやけに金星の輝きが目についた。  硝子の先に夜空を眺める青年。湿ったタオルで拭っただけでは砂塵を満足に落とし切れてはいないようだ。 「グズッ、ズズ……」  油断をすると鼻水がきらめくので気が気ではない。体温の高揚は治まらず、むしろ酷くなっていた。  ~♪ ~♪  歌声が聞こえてくる。細かな水流が弾ける音で曖昧だが……それは優しく、胸の鼓動を高める少女の歌声。 「…………」  青龍が窓の外を眺めているのも、羽虫を気にしたのも――注意を他に向けるためである。  何から目を逸らしているのか? それはすりガラスの先に揺らめく艶めかしい情景からであろう。彼は今、4つ目の死闘を繰り広げている最中なのである。  しかし……なんと入念な入浴か!  水気少ない荒野のモーテルにバスタブなぞを設置している気が知れない。そしてちゃんとお湯が足りるところも憎らしい。  慌ただしい水の音が止まると歌声も静まった。  少女はバスタブに浸かることで非常にリラックスしたのだろう。  目を閉じて安堵の溜息を漏らしている。 「はっ、………いかん!」  視界に入る、入らないの問題ではない。バスタブに入ってしまったことですりガラスの先に見える肌色は減少したが――そういう問題ではない。  最早体温上昇は深刻となり、今にも恥ずかしさで部屋を飛び出してしまいそうだ。  だが、護衛対象を放っておいて逃げ出すことなどできぬ。できぬのである――。  青龍は部屋の角にて壁を向いて座し、心頭滅却、明鏡止水の極致を目指して精神統一を開始した。  自分は今、一人である。自分は今、何も気負うことは無い……と、己に言い聞かせる。 「――ええっと、ちょっといいかな?」  何か聞こえたか? いや、気のせいだと青龍は己の未熟を責めた。 「もしも~し、【青山さん】、大事な話があるのですが?」 「……エ?」  肩をトントンと指で刺激されたことで、さすがに青龍の集中力は途切れてしまった。 「すみません、ちょっと失礼しております……私、【ロキ】というもので――端的に紹介いたしますと、サナさんを追っているチームのリーダーを務めさせている者で御座います」  ――青龍はただ、茫然とした。瞑想の最中に呼び掛けられ、座したままノソリと向きを変えれば、そこには“見知らぬくたびれた表情の男”がニコニコと挨拶をかましていたからである。 「どうも……よろしく……」 「・・・つまり、私はゾノアンの都市監視委員なのですがね……」 「?? ・・・んぁっ!? き、キサマッ!!」  青龍は立ち上がり、腰元にある刃の柄に手を掛ける。  部屋に鍵を掛け忘れたか? 熱で朦朧としていたので鍵を掛けたか(サナが)どうかも覚えていない。  ――ちらりと確認した扉は破壊もされず、きっちりと閉じられている。 「ああ、どうか刃を抜かずに。こちらは不手際を認め、謝罪する意思があります」  【ロキ】と名乗った男はおずおずと引き下がりながら丁寧な口調で続けた。 「……謝罪?」  勝手に侵入しておいてよくぞテキトウを言えるものだと、青龍は警戒を解かない。  その様子を見たロキは冷や汗を拭い、ネクタイの根元を摘まんで「んんっ」と喉を鳴らした。 「そうです、謝罪です……どうやら場の緊張を解消するには説得力を持ってこちらの謝意を示す必要があるようですね……。  我々はサナさんを強硬な手段で連れ去ろうとしました。何故穏便に事を始めなかったか? それは不測の事態があったからで御座います――そう、あなたの存在です」  理屈に自分を指摘された青龍は不快を覚え、鞘から僅かに刃を引き出した。 「ええ――どうか、まだ冷静に。 ……【ギシアム=カーター】……ああ、昨晩あなたを襲った者ですが。彼は私の指示を受けて動いておりました。指示としては二段構えの構造を成しており、それは“妨害者と接触せよ”“少女の説得を試みよ”です」 「……妨害者は俺として、とても“接触”などと温い邂逅ではなかったが……」 「ええ、それこそ不手際の発端。当日の午後、あなたが撃退した白色のコートを着用した者ですが……それがギシアムの友人らしくて。それで彼、私の計れぬ所で頭に血を上らせていたようです(なんちゃって……)」 「……別に殺しても負傷もさせていないぞ、その白いコートは」 「ええ、殺されませんでしたが任務の失敗で左遷を言い渡されました」 「…………」 「その後は当事者であるあなたが経験したように、ギシアムは接触の意味を過激に解釈し、あなたを襲ったのでしょう……ですよね? まさかあなたから斬りかかったりしていませんよね?」 「……正当防衛であると考えている」 「だとしても過剰防衛ですが――」 「……手を抜いて勝てる相手ではなかった」 「我々は組織ですので、仲間を討たれてのんびりと事を進められる性質ではありません。よって相応に手荒な追走をいたしました――――が。ここは法廷ではなく、僻地のモーテルです。それに、こちらにも落ち度があることが判明した今、ここは不問としておきましょう。  ともかく、我々は本来、サナさんと――青山さん。お二人にこちらの事情を話して協力を仰ぎたかった……いえ、否。厳密にはサナさんを忌まわしい呪縛から解き放つ意味もあるので、どちらにもメリットのある話なのですよ」  理路整然と口から言葉を吐く。  結論は「互いにメリット」などと美味い話になっているが。「サナが都市監視委員から恥辱を受けた」と捉えている青龍にとって、これだけの理屈で警戒を解くわけにはいかない。  変わらず険しい表情である青龍。  ロキは「頃合いか……」と、胸ポケットに手を突っ込む。  青龍はぐっと腰を落として身構えた―――― 「 ふぅ~、さっぱりした。屋根なしの車は失敗だったかな~~ 」 「「 !!? 」」  男二人は声なき声を上げて同じ方向へと視線を向ける。  開かれた浴室の扉から湯気がほかほかと漏れ出し、乾燥気味の室内が湿度を増した。  未だ水滴滴る女のB86cm・W56cm・H88cmは、ただ一枚のバスタオルによって外敵からの視線をシャット・アウトしている。 「ヲぶしッ!?」  不意を突かれた青龍は閃光弾をくらった暴漢の如く背を丸めて膝を着いた。 「おっと、これは失礼……お邪魔しております」  ロキはタイの根元を抑えながら、2、3歩後ずさってややはにかんだ笑顔を見せている。 「はぁ、あなた誰―――って、青龍!?」  サナは慌てて青龍へと迫った。突如として屈み込んだ青年を心配したのだろう。  だが、そのやさしさがいけなかった……。 「・・・ッ・・・ッッ!?!??」  フワっと優しい異性の香りが青龍の鼻腔を過激に刺激した。  男に対しては――どんな香水だって、湯上りのナチュラルアロマにはかなわない。 ――青龍の鼻からぼたぼたと血が流れ落ちる。赤紫の古びたカーペットが黒ずんだ。 (ほんとだ。あいつの言った通り、本当に純粋なのか……)  興奮のあまり鼻血を噴きだした青年の様子を見て、ロキは“友人”が言っていたアドバイスの正確性を認めた。 「青龍、どうしたの?? ――そこの人っ! 青龍に何をしたのかな!!?」 「えっ」  鋭い眼光でくたびれた灰色スーツの男を睨み付けるサナ。  立ち塞がるその姿から圧倒的な母性のオーラを感じとり、ロキは硬直した。 「い、いぁいぁ! ぼ、僕は何もしてないよ! ただ彼と話を――」 「ああっ、そうか! あなたサナを追ってきたんだ! そうね、きっとそう!!」  聞く耳一切持たず。サナは手近な電気スタンドを掴み上げ、剣の代わりに振りかぶっている。 「……さ、サナ、あの……」 「待っテ、ちょっと落ち着いて!」 「サナだって護ってもらったんだから! 今度は青龍を助けるのはサナよ!!」  血を見て軽く興奮状態に陥ったサナは止まらない。バスタオル一丁という事実も忘れてワインドアップで豪快に脚を踏み出した。 ・サナの攻撃! 電気スタンドをロキへとぶん投げた! ・ロキの回避! 35%――成功! ロキは攻撃を避けた!  “ガシャァッ!!”と断末魔を上げて、電気スタンドは扉に叩き付けられてしまった。 「出て行け!」  サナは追撃の構えをとっている。次は電話台から引っこ抜いた引出の一段。 「ちょっ、ひぃっ!」 「……さ、サナ・・・おぶぅッ!」  振りかぶったサナの投段フォームは大きく脚を上げたものであり、顔を上げた青龍の視界にはあれやそれやが不可抗力に映り込んだ。  更なる出血と共に青龍が額を地に着けたと同時――― “ショアアッ!!”  威勢の良い掛け声と共に豪快に部屋の扉が蹴破られる。 「きゃぁ!?」 「!? レイア、まだ早いっ!」  冷や汗をかきつつ振り返ったロキは声を荒げた。  扉を無作法にも蹴破ったのはゴーグルを装着しているラバースーツの人。打ち破った扉の破片を踏みつけつつズカズカと入室してくる。 「マックイィーンと呼べ……お前は退がっていろ」  ライダーゴーグルを外してギロリとサナを睨み付ける【マックイィーン/レイア】。どうやら扉の先でずっと聞き耳を立てていたらしい。  ―― 1匹の小さな蝙蝠が箪笥の裏から飛び立った ――  それはバサバサと飛行音を鳴らして、扉の先に広がる夜闇へと紛れていく。  ―― やれやれ……穏便に話し合いで済ませる手筈だろウ?? ――  “カツカツ”と、ブーツの踵が打ち鳴らされる。  夜闇の中でギョロリとした大きな球が目立ち、更に凝らせばディフォルメされたアニメーションキャラクターのような、非現実的なる頭部の人が姿を現した。 「【ティヴィ】っ! お前も入ってくるなって!」 「あっ! こ、こいつら――」  黒いラバースーツと異形の頭部に見覚えがあるサナは、手にしている引出の一段を盾のように胸の前に持ち替える。  怯えて震える少女の身体を隠すように立つ青い影。  ぼたぼたと鼻から血を流しながら、朦朧とする熱を堪えて青龍は立ち塞がった。 【ティヴィ】「――なんだ、ロキぃ。君も案外手が早いんだねぇ」 【ロキ】  「いやいや、違うから。僕じゃないから!」 【レイア】 「……お前が手負いにできる相手とは思えんが……」  ―――並ぶ3人の“都市監視委員”――― 【青龍】 「……ぜぇ、ぜぇ……ぐがっ……」 【サナ】 「青龍、無理しないでよっ!」  ―――相対する2人の、“逃亡者”―――  ついに邂逅した彼らだが、逃亡者には酷く分の悪い状況である。片方は守られる女であり、それを護る男は体調不良を重ねている。 「……はぁ、ったく。やりなおしですね。アプローチの角度を変えましょう」  ロキが胸のポケットから携帯電話を取り出し、ニヤリと笑みを浮かべた。  増援要請かと青龍が速攻の覚悟を決めた時・・・・・ 「おまえら、何しとるん?」  それは静かな声だった。  落ち着いていて、しかしそこから確かな“怒り”が5人へと伝わった。  今にも嵐を迎えようとする局面に落とされた不意の一石に、室内の全員が一斉に部屋の入口へと顔を向ける。  齢70を超えて――現役。イモ畑の隅々までを知りつくし、モーテルの経営までこなす精力家。唯一の悩みは息子夫婦が嫁の味方についてしまったことで、自宅に居場所がなくなったこと―――。 「あんまし滅茶苦茶やってっと、追い出しちゃるぞ。夜の荒野は冷えっからな!」  ガントレット=モーガン。思わせぶりな登場をしたこの老人だが、とくにこれと言って権力を持つわけではない。 ただ、【モーテルのオーナー】である彼には“権利”があるのだ。  老人は壊された入り口の扉に対する修理代の支払いを淡々と請求した。  灰色のくたびれたスーツが平に謝る後ろ姿。  哀愁漂うその姿を、彼の部下とその他2人が静かに見守っている―――・・・。 Block4:考古学好きの友人A  END From ――『 この惑星の未来から 』―― $四聖獣$
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